知的財産ガイドライン改正の経緯にみる独禁法と特許法の緊張関係

独占禁止法が私的独占を禁止する制度である一方で、特許は発明の実施の独占を認める制度であり、両制度の間には一定の緊張関係があります。
特に標準化された技術を実施するのに必須な特許権においてはその緊張関係が顕著です。

当該特許権者が自由に権利を行使できるとすると、当該技術分野における生殺与奪権を当該権利者に与えることになりかねず、翻ってそのような強力な権利者が存在する技術を標準技術として採用することは難しくなるからです。

ただ、技術の進歩の早い分野では、特許権が存在する技術を標準技術として採用することは避けて通れません。

そこで、標準化団体が、当該技術を実施するのに必須な特許の権利者に対して、取り消し不可能なライセンスを公平、合理的かつ非差別的な条件(FRAND条件)で許諾する用意があることを書面で確約することを求めた上で、当該技術に関する規格又は技術仕様につき承認を行うことがあります。

そして、上記を踏まえて、公正取引委員会は「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」において、FRAND条件の取扱いに関する指針(以下「本件指針」といいます。)を発表しております。

今般、本件指針が改正されることになりましたが、昨年7月に発表された原案に対して、様々な意見が寄せられ、原案の一部が修正された上で改正されました。まさに独占禁止法と特許法の緊張関係を示す状況といえます。

以下、意見の一部とそれに対応する成案の抜粋を掲載します。

【意見】
① ライセンサー・ライセンシーいずれの立場にも偏らないフェアな競争環境が整備されることが、産業界の利益になると考えられる。改正の趣旨が「特許権者による権利行使を制限する」ことに偏った印象があり、「発明の保護と利用」のバランスの観点から、必須特許権者の保護(特に、標準技術の研究開発や標準化活動への積極的な参画についてのインセンティブ)による競争の促進という側面に配慮した記載もすべきである。
② 「FRAND条件を受ける意思を有する者」とはどのような者か具体的に示すべきである。交渉時に「裁判よりライセンス条件が決定されれば従う」とのみ回答し、実質的に交渉しない不誠実な実施者も保護対象となり得るため、ライセンスを受ける意思の有無の認定に際しては、実施者の交渉態度等を参酌すべきである。例えば「FRAND宣言をしたから必須特許を有する者とライセンス拒絶又は差止請求訴訟の対象となる他の事業者との間における交渉の経緯及び内容、特許権者からの具体的ライセンス条件の提示の有無、ライセンス条件がFRANDであることの説明の有無、相手方からのカウンター提案又はライセンス提案を拒否することについて具体的に記述することが有益である。

【成案】
① FRAND宣言は、標準規格必須特許を有する者には、標準規格必須特許の利用に対して相応の対価を得ることを可能とすることによって、また、規格を採用した製品の研究開発、生産又は販売を行う者には、標準規格必須特許をFRAND条件で利用することを可能とすることによって、規格に係る技術に関する研究開発を促進するとともに、規格を採用した製品の研究開発、生産又は販売に必要な投資を促進するものである。
② FRAND条件でライセンスを受ける意思を有する者であるか否かは、ライセンス交渉における両当事者の対応状況(例えば、具体的な標準規格必須特許の侵害の事実及び態様の提示の有無、ライセンス条件及びその合理的根拠の提示の有無、当該提示等の応答状況、商慣習に照らして誠実に対応しているか否か)等に照らして、個別事案に即して判断される。

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IGZO商標無効審決取消訴訟判決

下記登録商標(「本件商標」)の登録を無効とした特許庁の審決を取り消すことをシャープ株式会社(「シャープ」)が求めた訴訟につき、知財高裁が同社の請求を棄却する判決(「本件判決」)を平成27年2月25日に言い渡しました。
                             記
商標 IGZO(標準文字)
登録番号 商標第5451821号
指定商品 電気通信機械器具、電子応用機械器具及びその部品、電池、配電用又は制御用の機械器具

本件商標はシャープが平成23年6月24日に登録出願をし、同年11月18日に設定登録を受けたものなのですが、知財高裁はその判断において、次の事実を認定しています。

① 東京工業大学の細野秀雄教授が、平成7年の国際会議において、「In(インジウム)、Ga(ガリウム)、Zn(亜鉛)及びO(酸素)の複合物からなる酸化物」(「本件酸化物」)を指す語として「IGZO」の語を紹介したこと
② 平成23年10月25日までに特許庁に出願された1027件の特許に係る特許請求の範囲又は明細書の記載中において、「IGZO」の語が用いられていること

そして、それらの事実を前提として、本件商標は指定商品との関係で自他識別力を有するということはできないし、特定人による独占使用を認めることが公益上適当であるとも言えないとして、特許庁の審決の判断は相当であるとしています。


ところで、この紛争は、多くのメーカーが本件酸化物に関する研究開発をしていたのに、シャープがIGZOという商標を独占することは許せないとして、本件酸化物に関する特許権を有する独立行政法人科学技術振興機構が無効審判請求をしたことによって始まりました。
この判決により、一見シャープが極めて不利な状況に陥ったようにも見えます。
しかし、無効審決が確定したとしても、シャープは本件商標を引き続き使用することができます。独占的に使用することができなくなるだけです。(言い換えると、他社に独占される可能性は潰せたわけです。)
しかも、本件判決において、わざわざ「本件では、原告から、法3条2項該当性(いわゆる使用による特別顕著性)の主張はされていない。」と言及されているとおり、将来において、使用により出所識別力を有するに至ったとして、登録が認められる可能性すら存在します。
ですから、シャープ自身は大したダメージは受けていないと考えているかもしれません。

営業秘密の漏えい防止

産業構造審議会知的財産分科会の営業秘密の保護・活用に関する小委員会が、「中間とりまとめ」と題する文書を公表しています。

この内容につき、海外における営業秘密の不正使用や海外企業に対する開示といった行為について、原則よりも重い法定刑を設ける方針を政府が固めたということはすでに報道されています。
しかし、それは「中間とりまとめ」で述べられていることのごく一部でしかありません。
営業秘密の漏えいを防止するためには、様々なレベルでの対策が不可欠だからです。

嫌儲

「嫌儲」という言葉をwikipedeiaで調べてみると、次のように説明されています。

「嫌儲(けんちょ、けんもう、いやもう)とは、利益利用を嫌うことを意味するインターネットスラング。文字通り「金を儲けることを嫌うこと」を意味し、特に、(アフィリエイト広告等で)他人が楽に儲けることに対する心情的反感といった意味合いがある。また、2ちゃんねるの書き込みなどを商用利用する行為を嫌うこと、また嫌う人々を指す。」

ところで、スペインで著作権法の改正があり、グーグルニュースのスペイン版サイトが閉鎖されたそうです。
メディア等が公開しているネット上の記事を集めて閲覧者に提供することは、たとえ無償で閲覧に供していても、それにより広告収入を得ていれば「ただ乗り」に当たるとの批判があります。
その批判を受けて、スペインでは、ネット上の記事を収集して閲覧に供する業者に対して、利用料をメディアに支払うことを義務付ける法改正を行いました。
そのために、グーグルニュースのサイトが閉鎖に追い込まれたというのです。

その結果どうなったか。
2015年1月26日付日本経済新聞の記事を引用します。

「世界中の利用者がスペインの新聞社などの記事にアクセスしづらい状況が続いているほか、同国の中小メディアは、サイトに流入する利用者が減少して広告収入に影響が出かねないと危機感を抱いている。」

趣味で記事をネットに投稿しているだけの人であれば、「ただ乗り」を嫌い、著作権保護の強化をひたすら主張する嫌儲として振る舞っていてもよいのでしょう。
しかし、メディアは、極めて悩ましい問題に直面しているようです。
なにしろ、メディアである日本経済新聞社自身がこのように報じているわけですから。

モノ・データ・サービス

本日の日経新聞に、電子書籍サービス停止に伴うトラブルに関する記事が掲載されていました。
一旦購入した電子書籍はずっと読めると思っていたところ、読めなくなった。法的には問題ないと言われても、消費者は納得できないという話です。

電子書籍を「購入」した場合、モノを買ったのではないとしても、データを購入したのであるから、そのデータを永続的に利用できるはずだと消費者が考えるのは理解できなくはありません。
しかし、実際には書籍の閲読を可能とするサービス利用契約を締結したにすぎず、サービス停止とともに書籍を閲読できなくなる場合があるということなのでしょう。(電子書籍関連の契約内容を確認したわけではなく、記事を読んだ限りでの憶測にすぎませんが。)

サービス停止とともに閲読不可能になるのであれば、データの売買ではなくサービスの提供であるということを強調しておくべきなのかもしれません。
ただ、あまり強調しすぎると、電子書籍を購入する人がいなくなりそうですね。
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