最後の藁

ある結果について何が原因かを判断するのは極めて難しい問題です。
そのことを改めて教えてくれるのが、最高裁判所平成24年12月21日判決です。

前提となる事情を説明します。
Y社という上場会社の業績が悪化して、資金調達が困難になりました。
そのため、Y社は、平成20年5月末頃から再生手続開始の申立てを
検討しはじめました。
ただ、Y社経営陣はそれと並行して新たな資金調達の試みも
行っていました。
その一つが、転換社債型新株予約権付社債とスワップ契約を
組み合わせた方法による資金調達でした。
ところが、そのスワップ契約によって逆に58億円の営業外損失が
発生してしまいます。
力尽きたY社は、平成20年8月13日に当該損失発生を公表するとともに、
東京地方裁判所に対して再生手続開始の申立てを行ったのです。
Y社の株価は当然暴落してしまいました。

ここまでは普通の話です。
本件が特殊なのは、Y社が上記スワップ契約について適正に開示しておらず、
臨時報告書と有価証券報告書に虚偽記載があったことです。
Y社は、営業外損失が発生したことを公表するとともに、虚偽記載があったこと
についても公表したのでした。
ところで、臨時報告書や有価証券報告書に虚偽記載があった場合、当該書面提出者は、
株式を市場で取得した者に対して損害賠償責任を負うとされています。
賠償額は記載に虚偽があったことにより生じた損害の額です。

本件で問題となったのは、Y社の株価が暴落したのは、もっぱら①虚偽記載の
公表によるものなのか、それとも②再生申立ての事実も暴落の原因と
なっているのかということです。
①のみが下落の原因なのであれば、下落額全額を虚偽記載により生じた
損害として賠償を求めることができることになります。
この点、原審判決は下記のとおり述べて、①のみが原因と認定しました。
(なお、「上告人」というのがY社を指します。)

「上告人の経営は、平成20年6月末には破綻状態にあり、そのことが
市場にも明らかであったことからすると、Y株の値下がりは、
本件虚偽記載等の事実が公表されたことで、上告人の信用が喪失し、
今後の上告人の資金調達の見込みが失われたことにその原因があったと
認めることができる。
上告人は、同月末の時点で、資金調達の見込みがなければ、
再生手続開始の申立てをしなければならない状況にあり、
本件再生申立ては、本件虚偽記載等の事実の公表に伴って
必然的に採らなければならない対応であったから、Y株の値下がりが
本件再生申立てによって生じたものと認めることはできない。
したがって、Y株の値下がりは、全て本件虚偽記載等の事実の
公表により生じたものと認められ、それ以外の事情により生じたとは
認められない」

それに対して、最高裁は、下記のとおり、上記①だけでなく②も
株価下落の原因であるとしました。
(最高裁が、「本件再生申立てによる値下がりが本件虚偽記載等と
相当因果関係のある値下がりと評価できるか否か」について、
検討しているために若干読みにくくなっているかもしれません。
最高裁がこの点について検討しているのは、値下がりの直接的原因が
①と②であっても、②が①の結果であれば、結局は①のみが
原因と言えることになるので、②が①の結果であることを
否定するためです。)

「本件公表日後1箇月間のY株の値動きについてみると、
本件公表日においては、本件虚偽記載等の事実とともに、
本件再生申立ての事実についても公表されていることに照らすと、
本件公表日後のY株の値下がりは、上記両事実があいまって
生じたものとみるのが相当である。
そして、本件再生申立てによる値下がりが本件虚偽記載等と
相当因果関係のある値下がりと評価することができるか否か
について検討すると、次のとおりである。
上告人が本件再生申立てに至ったのは、前記事実関係のとおり、
平成19年末頃から継続していた金融機関の融資姿勢の厳格化等に
伴う資金繰りの悪化によるものである。
本件虚偽記載等の事実の公表によって上告人の信用が低下した
面があることは否定できないとしても、本件虚偽記載等や、
その事実の公表に起因して、上記の資金繰りの悪化が
もたらされたわけではない。
また、前記事実関係によれば、Y株の市場価格次第では、
本件スワップ契約による資金調達が見込めないわけではなかったのみならず、
仮に本件CBないし本件スワップ契約による資金調達が
実現しなかったとしても、上告人は、平成20年6月初めから
Aとの間で業務・資本提携の交渉を開始しており、
実際にも多額の資金を調達することに成功して、これを債務の返済に
充てていたほか、AによるTOBが同年8月に実施されることも見込まれ、
同年6月19日には上告人が再生手続開始の申立ての検討を
一旦は中止していたというのであって、本件虚偽記載等がされなかった場合に、
こうしたAとの提携交渉までもが頓挫したことが確実であることを
うかがわせる事情は見当たらない。
そうすると、本件虚偽記載等がされた当時、上告人が倒産する可能性が
あったことは否定できないものの、上告人が既に倒産状態又は
近々倒産することが確実な状態であったということはできず、
本件虚偽記載等によってそのことが隠蔽されていたということもできない。
そして、ほかに本件再生申立てによるY株の値下がりが
本件虚偽記載等と相当因果関係のある値下がりであると評価すべき事情は
見当たらない。
以上によれば、本件公表日後1箇月間に生じたY株の値下がりは、
本件虚偽記載等の事実と本件再生申立ての事実があいまって生じたものであり、
かつ、本件再生申立てによる値下がりが本件虚偽記載等と
相当因果関係のある値下がりということはできない」
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根保証の随伴性

平成24年12月14日に言い渡された最高裁判決の話題です。
根保証の随伴性が問題となった事案について、最高裁は
次のとおり判断しました。

「被保証債権を譲り受けた者は、その譲渡が当該根保証契約に
定める元本確定期日前にされた場合であっても、当該根保証契約の
当事者間において被保証債権の譲受人の請求を妨げるような
別段の合意がない限り、保証人に対し、保証債務の履行を求めることができる」

ところで、根抵当権の随伴性については、元本確定前に
根抵当権者から個々の被担保債権の譲渡を受けたとしても、
その者は当該根抵当権を行使することができないとされています
(民法第398条の7第1項)。
最高裁は根保証の随伴性について、根抵当権の随伴性とは
異なると判断したわけです。
なぜでしょうか。

まず、確認しておくべきことは、根抵当権は物権であり、
当事者の意思によってその性質を変更させることが
できないのに対して、根保証契約については、
契約自由の原則の下、合意によって、随伴性を生じさせることも
生じさせないことも自由だということです。
その前提の下、最高裁は、根保証契約の当事者は、
通常は、随伴性を生じさせることを意図して、
契約を締結していると考えられるとして、根保証については
随伴性を認めたのです。

以下、判決文から該当箇所を引用します。

「根保証契約を締結した当事者は、通常、主たる
債務の範囲に含まれる個別の債務が発生すれば
保証人がこれをその都度保証し、当該債務の弁済期が
到来すれば、当該根保証契約に定める元本確定期日
(本件根保証契約のように、保証期間の定めがある場合には、
保証期間の満了日の翌日を元本確定期日とする定めを
したものと解することができる。)前であっても、
保証人に対してその保証債務の履行を求めることが
できるものとして契約を締結し、被保証債権が譲渡された場合には
保証債権もこれに随伴して移転することを
前提としているものと解するのが合理的である。
そうすると、被保証債権を譲り受けた者は、その譲渡が
当該根保証契約に定める元本確定期日前にされた場合であっても、
当該根保証契約の当事者間において被保証債権の譲受人の
請求を妨げるような別段の合意がない限り、保証人に対し、
保証債務の履行を求めることができるというべきである。
本件根保証契約の当事者間においては上記別段の合意が
あることはうかがわれないから、被上告人は、上告人に対し、
保証債務の履行を求めることができる。」

田中亘「企業買収と防衛策」

書下ろし部分は第1章と終章のみで、2005年から2009年に
かけて発表された論文をまとめた本です。

私は初出時点においてほぼすべての論文を読んでいましたし、
最近は、買収防衛策自体話題にならなくなってきて
しまっています。
そこで、7000円出して本書を買うかどうか、迷ったのですが、
結局買ってしまいました。

読み進めるうちに買収防衛策の立案をお手伝いしていた時のことを
思いだし、懐かしさを覚えてしまいました。
そんなに昔のことではないはずなのに、すっかり過去のことに
なってしまったようです。

企業買収と防衛策企業買収と防衛策
(2012/12/06)
田中 亘(東京大学準教授)

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韓国の光と影

週刊東洋経済12月15日号が、「韓国の強さは本物か」と題して
韓国経済を特集しています。

中身を読むと、5年後に韓国の1人当たりGDPが日本に
追いつくと予想されている反面、非正規雇用が増え、
高齢者貧困率が先進国ワーストとなっているといったことが
書かれています。
韓国経済にも光があれば影もあるということでしょう。

ただ、この光と影、根っこに目を移せば、原因は一つと思われます。
「「日韓逆転」はグローバル化の帰結」という記事が書いているように
韓国の1人当たりのGDPが伸びているのは韓国経済のグローバル化の度合いが
日本をはるかに上回っているからでしょう。
しかし、非正規雇用が増えているのもグローバル化が原因になっているはずです。
高齢者貧困率が高いのもグローバル化と無縁だとは思えません。

TPPを推進して、経済のグローバル化を促進すれば、経済成長が望めるのに
なぜTPPに反対する人たちがいるのか。
韓国経済の影の部分がその答えを示してくれていると思います。

森田修「ABLの契約構造」

金融法務事情No.1959に表題の論考が掲載されています。
なお、森田修教授は「債権回収法講義」の著者でもあります。

論考の内容は、在庫商品を目的物とする集合動産譲渡担保権を
用いた取引が活発にならないことに着目し、実務において
”使える”契約を設計できないか、その可能性を検討した
ものとなっています。
そんなに長い論考ではありませんが、契約の書式、登記実務にまで
目配りするとともに、在庫担保の効力の3段階の変容という
新しいモデルを提示しており、意欲的な内容となっています。

読んでかなり勉強になりました。

債権回収法講義 第2版債権回収法講義 第2版
(2011/04/15)
森田 修

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バクチの「必要経費」

2009年までの3年間に約28億7000万円の馬券を購入し、
約30億円の配当を得た人物が、約29億円の所得を得たとして、
約6億9000万円の追徴課税を受けたことが話題になっています。

普通に考えれば、1億3000万円(=30億-28億7000万)の
所得ということになりそうなのに、なぜ約29億円の所得
ということにされてしまったのでしょうか。

それは、馬券の払戻金は一時所得と考えられているからです。
一時所得の金額は、次のように計算されます。

一時所得=①一時所得に係る総収入金額-②その収入を得るために支出した金額

ここで、②収入を得るために支出した金額が、①の収入を
生み出すために直接要した費用の金額に限られているというのが、
この問題のキモです。
一時所得のような偶発的な利得については、収入の発生に
つながらなかった支出は、所得の処分ないし消費として、
控除を認めないとされているのです。
ですから、外れた馬券の購入金額は②には含まれず、その結果、
上記人物の一時所得の金額は約29億円とされてしまったわけです。

これでは競馬をやると、必ず損をすることになると批判の声が
上がっています。
上記人物は市販の競馬予想ソフトに独自の計算式を入力し、
2004年ごろからインターネットで一度に大量購入していたそうなので、
この所得は一時所得には当たらないと考える余地が
全くないわけでもないように思えます。
裁判所に認めさせるのはかなり難しそうではありますが。

ところで、この人、これから税金だけでなく、その独自の計算式を
教えろと迫る人たちに悩まされることになりそうですね。
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大久保宏昭

Author:大久保宏昭
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