破産における相殺禁止

破産における相殺禁止に関する最高裁判決が、
平成24年5月28日に言い渡されています。
第一審判決は大阪地方裁判所平成20年10月31日判決
判例タイムズ1292号294頁、原判決は大阪高等裁判所
平成21年5月27日判決金融法務事情1878号46頁だと
思います。

事案の概要は次のとおりです。
①銀行が、当座勘定契約を締結し、預金の預け入れを受けている
事業会社の買掛金債務等につき、当該事業会社からの
委託を受けずに、債権者との間で根保証契約を締結した。
②その後当該事業会社につき破産手続が開始された。
③破産手続開始後に当該銀行は、当該買掛金債務等に
ついて代位弁済をした。
④当該銀行は、当該事業会社に対し、上記代位弁済によって
取得した事後求償権と預金債務とをそれぞれ対等額で
相殺するとの意思表示をした。

委託を受けずに根保証契約を締結している点が、ナゾです。
といっても怪しい銀行ではなく、メガバンクの1つです。
複数の事業会社について、根保証契約を締結していますし、
どうやら債権者から対価を得ていたようでもありますので、
新しいビジネスモデルということだったのかもしれません。

さて、破産法67条1項は、原則として、破産手続開始時に
おいて破産者に対して債務を負担する破産債権者による
相殺を認めています。
その一方で、破産債権者間の公平・平等という観点から、
一定の場合には、相殺が禁止されています。
同法71条1項1号がその一例です。

本件では、委託を受けない保証人が主債務者の破産手続
開始後に取得した事後求償権を自動債権として相殺することが
認められるか否かが問題となりました。
要するに、破産法67条1項が適用され相殺できるのか、それとも
同法71条1項1号が適用され相殺できないのかということです。

この点に関し、原判決は次の通り相殺を認めました。

「破産法72条1項1号の準用又は類推適用により、本件各相殺が
禁止されるか。
保証債務を履行したことにより取得する事後求償権と、上記履行により
代位行使が可能になる原債権とは別個の権利であるから、被控訴人が
本件各保証契約に基づく保証債務を履行したことにより取得した
事後求償権は、破産者の破産手続開始後に取得した他人の
破産債権には当たらず、破産法72条1項1号の適用を受けない。
また、同号にいう取得とは、将来の請求権の場合には、将来の
請求権の現実化ではなく、現実化する前の将来の請求権を取得する
ことをいうと解されるところ、被控訴人が将来の請求権としての
事後求償権を主と取得したのは、破産者の破産手続開始前の
本件各保証契約の締結によってであると解すべきであるから、
同号を準用又は類推適用することもできないというべきである。」

ところが、最高裁は次の通り相殺は許されないとしました。

「破産者に対して債務を負担する者が,破産手続開始前に債務者である破産者
の委託を受けて保証契約を締結し,同手続開始後に弁済をして求償権を取得した場
合には,この求償権を自働債権とする相殺は,破産債権についての債権者の公平・
平等な扱いを基本原則とする破産手続の下においても,他の破産債権者が容認すべ
きものであり,同相殺に対する期待は,破産法67条によって保護される合理的な
ものである。しかし,無委託保証人が破産者の破産手続開始前に締結した保証契約
に基づき同手続開始後に弁済をして求償権を取得した場合についてみると,この求
償権を自働債権とする相殺を認めることは,破産者の意思や法定の原因とは無関係
に破産手続において優先的に取り扱われる債権が作出されることを認めるに等しい
ものということができ,この場合における相殺に対する期待を,委託を受けて保証
契約を締結した場合と同様に解することは困難というべきである。
そして,無委託保証人が上記の求償権を自働債権としてする相殺は,破産手続開
始後に,破産者の意思に基づくことなく破産手続上破産債権を行使する者が入れ替
わった結果相殺適状が生ずる点において,破産者に対して債務を負担する者が,破
産手続開始後に他人の債権を譲り受けて相殺適状を作出した上同債権を自働債権と
してする相殺に類似し,破産債権についての債権者の公平・平等な扱いを基本原則
とする破産手続上許容し難い点において,破産法72条1項1号が禁ずる相殺と異
なるところはない。
そうすると,無委託保証人が主たる債務者の破産手続開始前に締結した保証契約
に基づき同手続開始後に弁済をした場合において,保証人が取得する求償権を自働
債権とし,主たる債務者である破産者が保証人に対して有する債権を受働債権とす
る相殺は,破産法72条1項1号の類推適用により許されないと解するのが相当で
ある。」

本件で興味深いのは、裁判官の補足意見です。結論を出すまでの悩みが
伝わってきます。特に以下の文章が面白いですね。メガバンク相手だと
ここまで気を使うのかという気がします。

「受働債権の存在ないしはそれと破産開始後事後求償権との相殺を
前提とする無委託保証が慣行として定着していることは全くうかがわれず、
また、将来、例えば、預金等を取り扱う金融機関(預金保険法2条1項、
2項参照)が今後この業務に積極的に算入するという傾向も看取され得ない。
受働債権との相殺を前提としないと、その業務の遂行を困難にさせ、
あるいは業界の発展を妨げるとは思われず、また、この相殺を否定することが
債務者の資金調達ないしは与信機会の拡大を著しく妨げることになるという
ような事態もにわかに考え難いところである。」

「無委託保証契約を締結した金融機関等が、主債務者に破産手続が
開始された後に保証債務を弁済して事後求償権を取得したとしても、
破産法72条1項1号の類推適用により、破産者に対する(預金)債務との
相殺処理は許されないとすることは、無委託保証のビジネス自体を阻害する
のではないかが問題となろう。しかし、無委託保証人は、今後、このように
相殺処理が許されないことを前提にして、債権者から取得する対価を
あらかじめ相応の価格に設定することは可能であり、また、そもそも、
本件のように、預金債権が当座預金債権である場合には、預金額には
日々増減があり、特に倒産時には相殺等の対象として利用できる程度の
額が残存しているかは予想し難いところであろうから、上記相殺処理を
禁止することが無委託保証ビジネス自体を阻害することになるおそれは
ないものと思われる。」
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