31年ぶりの貿易赤字

週刊エコノミストが「不都合な経常赤字」という特集を組み、
この貿易赤字は一過性のものではなく、構造的なものであって、
将来は経常赤字になる可能性があると指摘しています。
経常赤字になるかどうかはともかく、一過性のものではないという点は、
私も同意見です。
「1980年以来の貿易赤字」というニュースを聞き、私は次のことを考えました。

①来るべきものがとうとう来た。
②市場メカニズムが働いた。
③無理は続かない。

円高が輸出不振の原因であるかのように語られることが多いのですが、
そもそもその輸出が円高の原因の一つになっているということを
認識すべきだと思います。

為替相場は、水野貴之「時系列の因果性を判定する」青木正直他監修
「50のキーワードで読み解く経済学教室-社会経済物理学とは何か-」198頁によれば、
数十分よりも短い時間では、過去に動いた方向とは逆方向に動きやすい性質をもち、
数十分よりも長い時間では、上がるか下がるかわからないランダム・ウォークの性質を
持っています。
為替相場については、投機筋の思惑が語られることが多いのですが、投機の動きは
ランダム・ウォークにすぎず、円高方向にも円安方向にも働かないわけです。
では、長期的にみて為替相場のトレンドを作り出すものは何かといえば、
佐藤彰洋「外国為替相場のメカニズム」前掲書313頁のとおり、通貨の需給です。
そして、通貨の需給を作り出す要因は、佐々木融氏が「弱い日本の強い円」で
述べているとおり、貿易、証券投資、直接投資です。
簡単にいうと、経常黒字は円高をもたらすし、経常赤字は円安をもたらすということです。
そこで、経常収支の統計をみると、2000年以降、巨額の経常黒字が続いてきたことが
わかります。
円高傾向が続いてきたことは当然なのです。

円高が続いた場合、時間を考慮しなければ、輸出が減り、輸入が増えて
今度は円安傾向になってバランスが取れるはずです。
しかし、人間の行動の多くは習慣的なものです。
価格が高くなったからといって、すぐに行動を変えることはしません。
また、人間は現状を維持しようと必死になる傾向があります。
ですから、円高が続いても、外国人は日本製品を買い続け、日本企業はコストダウン等の
必死の企業努力を続け、そのために貿易収支の黒字が続いてきたのだと思われます。
ところが、必死の努力で輸出を続ければ続けるほど、円高傾向は続き、輸出がより難しくなります。
そして、円高が続けば、いつかは習慣も変わり、努力の限界も来て、市場メカニズムの示す
結末へとたどり着くことになります。
貿易収支が赤字となったのは、そのためだと考えられます。

今後ですが、今度は貿易赤字に至った動きの慣性が相当程度持続すると思われます。
しかも、貿易赤字となっても経常収支はまだ黒字です。
経済界では海外移転プロジェクトが目白押しですし、海外製品を日常的に
買うようになった消費者の行動も止まらないでしょう。
もはや韓国や台湾の製品を粗悪品と考える消費者はほとんどいません。
ですから、経常赤字になるかどうかはともかく貿易赤字は一過性のものではないと
考えられるわけです。


50のキーワードで読み解く 経済学教室

弱い日本の強い円 (日経プレミアシリーズ)
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