労働契約法改正は、非正規社員を救えるか

厚生労働省の労働政策審議会が、厚生労働大臣に対して、
「労働契約法の一部を改正する法律案要綱」について、
「おおむね妥当」と答申したそうです。

この法律案要綱のポイントは、以下のとおりとされています。

1.有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換
 有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合(※1)は、労働者の申込みにより、
無期労働契約(※2)に転換させる仕組みを導入する。
 (※1) 原則として、6か月以上の空白期間(クーリング期間)があるときは、前の契約期間を通算しない。
 (※2) 別段の定めがない限り、従前と同一の労働条件。

2.「雇止め法理」の法定化
 雇止め法理(判例法理)(※)を制定法化する。
 (※) 有期労働契約の反復更新により無期労働契約と実質的に異ならない状態で存在している場合、
 または有期労働契約の期間満了後の雇用継続につき、合理的期待が認められる場合には、
 解雇権濫用法理を類推して、雇止めを制限する法理。 

3.期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止
 有期契約労働者の労働条件が、期間の定めがあることにより無期契約労働者の
労働条件と相違する場合、その相違は、職務の内容や配置の変更の範囲等を考慮して、
不合理と認められるものであってはならないものとする。


2は、特段現状を変更するものではありません。
3もあまり意味のある内容のものではなさそうです。
問題は、1です。
現代の企業社会は、もはや身分社会とも言うべきものになっています。
正規社員と非正規社員とでは扱いがまったく違います。
この改正案が、身分差の解消を目指したものであることは想像がつきます。
また、ヨーロッパには、有期労働契約について、一定の期間を超えると
期間の定めのない契約とみなすとする制度を設けている国があります。
先例もあるわけです。
ですから、こういう改正をしようとする理由は、よく分かります。
ただ、この改正案が非正規社員のためになるかどうかは、分かりません。

ぱっと考えてみても、この改正案が実現した場合、使用者は5年経過前に
契約更新を止めるのではないかとの疑問が生じます。
たしかに正社員と同じ仕事をするようになっているにもかかわらず、
採用時に非正規社員として雇用されたというだけで、いつまでも
不安定な地位に置かれている人たちはいます。
この改正案が、そういう人たちの地位を安定させる効果を持つ可能性があることは
否定できません。
しかし、非正規社員のうちの多くは、労働者の入れ替えが比較的簡単な労働に
従事していると思われます。
この改正案は、そういった労働者の首切り促進につながりかねない可能性もあるわけです。
トータルで考えると非正規社員のためになるかどうかは、分かりません。


文献の助けを借りて、もっと深く考えてみましょう。
前述のとおり、ヨーロッパには似た制度をすでに設けている国があります。
そして、以前から、一定期間又は一定の更新回数を超えた場合には、
無期労働契約とみなすというルールの導入を主張する労働法学者がいました。
そこで、そういう制度について、すでに考察した文献があります。
荒木尚志他編「雇用社会の法と経済」収録の両角道代・神林龍「有期雇用の法規制」です。
以下、引用します。

「欧州諸国の規制や日本での立法論を合理的に整理するためには、「有期雇用が
劣悪な雇用形態である」こと、逆にいえば「契約期間を無期にすることだけで
雇用環境は改善される」ことを前提とする必要があることがわかる。
したがって、雇用期間規制の議論の枢要は、「雇用期間が有期であるがゆえに
(無期と比較して)雇用環境がより劣悪となるメカニズムが存在するのか」という
問いの解答にあることがわかる。」

「雇用期間が有期であることによって雇用環境が悪くなる」という機序があるのであれば、
雇用期間を無期にすることによって、雇用環境を良くすることができるということですね。
さらに引用します。

「自由な再交渉を認めている近代民法のもとでは、有期契約か無期契約かは再交渉
決裂時の交渉ポジションをコントロールするアイテムに過ぎず、それ自体、その契約期間の
もとで提示される労働条件が良好であるか劣悪であるかとは一義的には関係ない。」
「もちろん、実際には、契約期間の設定とそこに参加する労働者の属性や労働条件との間には
明確な相関関係があると考えられている。」
「したがって、このような観点から有期雇用のあり方を考える際には、契約期間の
設定の仕方と賃金等に関する待遇決定の問題を切り離して考えることができない。
法律上は、有期労働契約は雇用期間が限定された契約にすぎないが、現実には、
賃金その他の労働条件についても正社員とは明確に区別された非正規社員としての
身分を設定する機能を果たしていると考えられているからだともいえる。」

経済学的な観点から単純に考えると、「雇用期間が有期であることによって
雇用環境が悪くなる」という機序はない。
しかし、雇用期間が有期であることは、社会的には劣った身分であることを表す
烙印となるのであって、そのラベル効果によって、雇用環境の悪化をもたらしている
可能性があるといったところでしょうか。
ただ、この推測が正しいとしても、雇用期間を無期にさえすれば、非正規社員という身分が
消えてなくなるとは言い切れません。
したがって、雇用期間を無期にすれば雇用環境を良くできるとも言い切れないことになります。


結局、この労働契約法改正案が非正規社員のためになるかどうかは、現時点では、
分からないというほかないように思います。
さて、どうなることやら。


雇用社会の法と経済
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