仮執行宣言・仮地位仮処分命令と判決

なんだか、タイトルからして、メンドクサイですが、
最高裁判所平成24年4月6日建物明渡請求事件判決の話題です。
今日は、少し専門的な話になります。
また、判例検索システムで調べても原審判決は見つかりませんでした。
現状手に入る資料は、上記リンク先の判決文のみです。
ですから、かなり分かりにくい話になっています。
個人的なメモとして書きますが、急いで理解する必要がない方は、
判例タイムズ等に解説記事が掲載されるのを待った方が良いかもしれません。

判決要旨は次のとおりです。

「控訴審は,第1審判決の仮執行宣言に基づく強制執行によって
建物が明け渡されている事実を考慮することなく,
明渡請求と併合されている賃料相当損害金等の支払請求の当否や
抗弁として主張されている敷金返還請求権の存否を判断すべきである」

これだけでは、何の話か分かりませんね。
まず、先例となっている最高裁昭和36年2月9日判決の判決要旨を
見てみましょう。

「仮執行宣言付の第1審判決に対して控訴があったときは、その執行に
よって弁済を受けた事実を考慮することなく、請求の当否を判断すべきである。」

第1審判決で100万円を支払えという仮執行宣言付の判決が言い渡され、
この仮執行宣言に基づいて被告が原告に対して100万円を支払いました。
控訴審で被告(控訴人)は、100万円を弁済したので、原判決を
取り消して原告(被控訴人)の請求を棄却すべきだと主張できるでしょうか。
もちろんできませんね。
請求が棄却されたら、原告(被控訴人)は、100万円を返さなければ
ならなくなってしまいます。
そういう話をしているのが、上記36年判決です。

似た判決も紹介します。最高裁判所昭和35年2月4日判決です。
判決要旨は、次のとおり。

「仮処分の執行により仮の履行状態が作りだされたとしても、裁判所は
かかる事実を斟酌しないで本案の請求の当否を判断すべきである。」

さて、ここまでは比較的簡単です。
ここから先がメンドクサイ。
なぜ仮の履行状態を斟酌しないのか、その理屈について、
最高裁昭和63年3月15日判決は、次のとおり述べています。

「仮処分債務者の仮払金支払義務も当該仮処分手続内における
訴訟法上のものとして仮に形成されるにとどまり、その執行によって
実体法上の賃金請求権が直ちに消滅するものでもない。
したがって、仮払金返還請求権は、右賃金請求権の存否に関する
実体的判断とはかかわりを有しないこととなる」

どういう意味でしょう。
最高裁判例解説を読んでみます。

賃金仮払仮処分は、「給付裁判の形式をとっても被保全権利たる実体的な
賃金債権自体の給付を命ずるものではなく、これとは別に、訴訟法上の
保全状態を創設し、賃金相当額の金員支払義務を新たに発生させる
ものであり、仮処分手続内において執行力ある債務名義を作成する
前提としての意義を有するにすぎず、債務名義に基づく執行は
直ちに実体的な賃金債権を消滅させる効果を持つものではない」

要するに、賃金仮払仮処分命令に基づいて金員を支払ったとしても、
賃金を払ったことになるわけではないということになります。
だから、賃金の支払を求める本案訴訟において、仮処分命令に基づいて
金員を支払ったことを考慮してはいけないということになるわけですね。

さて、ここで問題です。
仮処分命令に基づいて100万円を支払った後に、その期間に見合う
賃金100万円を支払えという判決が言い渡された場合には、
どうなるのでしょう。
この点について、2重払いになるのだと思わせる解説をしていた人が
いたそうです。
もちろん、そんなことにはなりません。

東京高等裁判所平成5年5月26日千代田化工建設事件判決を
引用します。

「本案訴訟において仮処分債権者が勝訴した場合、既に事実上
被保全権利が満足を得たのと同様の状態にあることから、
さらに本執行を申し立てて権利の実現を図る必要性もその余地もない。
そこで、満足的仮処分の執行後に仮処分債権者が本案訴訟で勝訴した
ときには、特に本執行への移行というような観念を入れるまでもなく、
当然に、本執行が行われたと同一の効果が仮処分執行時に
遡って生ずるものというべきである。そして、これとともに原則として、
仮処分自体も、その目的を達成して消滅すると解すべきである。
なお、この理は、満足的仮処分を債務名義として強制執行を申し立てる
までもなく、債務者が右仮処分に従って金員を支払うなど仮の履行を
した場合においても同様であることはいうまでもない。」

民事保全法の代表的な体系書瀬木比呂志「民事保全法」からも引用しておきます。

「保全執行は本執行に移行することに意味があり、自己完結性を
持ちえないものであるという原則についても、断行の仮処分という
例外がある。断行の場合の本執行移行は観念的なものにすぎない
(あらためて現実に本執行手続が行われるわけではないから、
本執行といってみても観念的なものでしかない)。」

本案訴訟において勝訴判決が確定したからといって改めて
本執行が行われ、その結果2重払いになるわけではないということになります。

仮執行宣言の場合には、もっと簡単です。
仮執行宣言付判決を債務名義とする強制執行自体が、そもそもいわゆる本執行です。
上訴を棄却する判決が言い渡された場合には、仮執行宣言の効果として原判決の
執行力が生じるだけですから、2重払いになることはありません。

さて、かなりの長旅でしたが、冒頭の平成24年4月6日判決に戻りましょう。

「控訴審は,第1審判決の仮執行宣言に基づく強制執行によって
建物が明け渡されている事実を考慮することなく,
明渡請求と併合されている賃料相当損害金等の支払請求の当否や
抗弁として主張されている敷金返還請求権の存否を判断すべきである」

上記判決要旨の意味は、もう分かりますね?
仮執行宣言に基づいて建物を明け渡していたとしても、控訴審では
そのことを考慮しないで判断すべきだと述べていることになります。
でも、そうなると建物を明け渡しているにもかかわらず、賃料相当
損害金が発生し続けることになりませんか?
その点については、判決は、次のとおり述べてフォローしています。

「上記の給付がなされた事実を控訴審が考慮しなかった結果第1審判決が
確定したとしても、上記の給付がされたことにより生じた実体法上の効果は、
仮執行宣言が効力を失わないことを条件とするものであり、当該確定判決に
基づく強制執行の手続において考慮されるべきことであるから、上記の
給付をした者の権利が害されることはない。」

以上です。
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